精神科医益田裕介の考察ブログ

早稲田メンタルクリニック院長のブログです。https://wasedamental.com

「どうすればよいか?」という問題

「どうすればよいか?」という問題に直面した時、知識を得ることがそのまま解決につながるものがあります。知識=解決という図式が成り立つものです。
反対に、知識≠解決というものもあります。知識があるけれど実行に移せない、そういう種類のものです。

おおざっぱにいってしまうと、医学の場合であれば「がん」という問題に対し、「より完璧な検査でより正確な診断」ができれば、「より良い手術が行える」という、ほぼ知識=解決の図式が成り立ちます。
患者さんから見れば、より「正確な検査・診断をしてくれれば、良い手術が受けられる(知識=解決)」というイメージを抱きやすいのではないでしょうか。

精神科の治療でも、知識=解決(診断し、薬物治療で解決する)というものもあります。
しかし、精神科で扱う問題のほとんどは知識≠解決です。頭で分かっていても、実行できない。正しい診断をするとか、完璧にその人の性格や心のうちを理解したとしても、患者さんを苦しめる認知の歪みをどれだけ改善させられるのでしょうか? 治療者が知り得たものを伝えるだけでは、おそらく、ほとんど解決しないのではないかと思います。精神分析の世界でも、フロイトは解釈だけで人は変化しないことを、彼が治療を始めた早期に発見しています。

認知が変わり、行動を変えるには、トライアンドエラーを繰り返し、自分の中の物差しを調整していくしかありません。
少しずつ、自分のことや周りのことを理解するにつれ、苦しみは減っていきます。
知識としての答えは、すぐ目の前にあるのですが、それを「使える」知識にするためには、やはりトライアンドエラーを繰り返し、自分で身に着けていくしかないのだろうと思います。

僕らが提供しているものは、まずは実行するための、安全な環境の提供であったり、どのように考えたらよいのか、ということの、ひとつのモデルの提示です。
診察室では、誰を憎んでいるとか、誰を愛しているのか、普段なら言ってはいけないこと、考えてはいけないことも、自由に話すことができます。
安全な空間で、少しずつ、その考えを中道に近づけていくことができます。

モデルとは、認知行動療法でも精神分析でも森田療法の枠組みのこともありますし、哲学でも心理学でも文学、神学…など、様々なイメージを利用します。僕らは患者さんに合わせ、ピンとくるイメージや考えを提示し続けます。もちろん、それらのモデルを無理に押し付けることはしません。自らが気づいたり、選び取るまで待ち続けます。

短期間で人を変えることはできません。しかし、森に降り注いだ雨が海に戻る、水の流れのように、時間はかかれど、人は落ち着くべきところに落ち着きます。

「この人はなぜ、こんなことをするのだろう?」「自分はなぜ、こんなことを想うのだろう?」「家族はなぜ、こんなことを言うのだろう?」
こうした、「なぜ?」を繰り返しながら考えていく作業が、トライアンドエラーの一例です。
僕らはそれらに付き合います。

 

ゆるやかに医療機関とつながり、トライアンドエラーを繰り返しながら、変化を期待することが大事だと思っています。
当院でも限界性はありますが、気軽に相談してください。