ここから話す内容は正確ではないですが、ものごとの概略を掴むにはわかりやすいので、このように説明させていただきます。
大雑把に言ってしまえば、落ち込んだ状態のことを「抑うつ状態」と呼びます。具体的には、眠れない、食べられない、頭がぼーっとする、何をしても楽しくない、死にたい…などの症状を「抑うつ状態」と呼びます。
落ち込むことは誰にでも起こりうるので、「抑うつ状態」には健康な人でもなりえます。例えば、過労(残業時間が月80時間を超える)や人間関係のトラブル(パワハラやいじめ、離婚不倫など)、その他、様々なストレスによって、「抑うつ状態」になりえます。
これらのストレスによって「抑うつ状態」になると、適応障害という病名がつきます。
しかし、世の中にはストレスとは関係なく、「抑うつ状態」になってしまう人がいます。それをうつ病とか、躁うつ病などと呼びます。これは「脳の病気である」とか「遺伝子の病気である」などの言葉で語られることも多いですが、原因は今一つよくわかっていません。一般的に、うつ病は40~50代で発症することが多く、また躁うつ病は10~20代で発症することが多いといわれています。70代など高齢者でもうつを発症することが多いですが、これは老年期うつ病と別の呼び方をしたりすることもあります。うつ病や躁うつ病の人は、このような原因不明の落ち込みを3~6か月ほど過ごすことが多く、その後改善しますが、しばらくするとまた、原因不明の落ち込みを経験するといわれています。
うつ病、躁うつ病の人であれば、薬物療法は必須といっても過言ではありません。うつ病の方にはSSRIやSNRIと呼ばれる、抗うつ薬がとてもよく効きます。また、再発防止にもなるといわれているので、医師と相談し、しばらくの期間は必要最小限の量を飲み続けたほうがいいでしょう。抗うつ薬を終了する判断は難しく、医師と相談したほうが良いと思います。
適応障害の人には抗うつ薬は必須とは言えません。休養と落ち込みの原因である問題やストレスに直接取り組むことの方が大切です。業務過多や上司からのパワハラなどが問題であった場合、休養と職場環境の調整が求められます。ただ、あとでも説明しますが、うつ病と適応障害を初見で区別することは難しいです。何年も診察治療を受けたのちに、診断が定めることも珍しくはありません。そのため、診断が難しく、副作用がないのであれば、抗うつ薬をあらかじめ飲んでおくというのも、悪くない判断だと思います。
1913年にヤスパースという精神科医から哲学者になった人は「了解可能か否か」というラインで、うつ病を区別しようとしました。落ち込む原因が、こちらでも理解できるものであれば、うつ病じゃないと言いました。たしかに、うつ病でも症状がひどい人で、入院が必要なレベルの人は「私はこの世で一番悪い人間だ。小学生の時に万引きをし、決して許されるはずがない」「私は貧乏だ。貯金もない(実際はけっこうある)」「私は何かの病気にかかっているに違いない。先生は私ががんであることを隠している(隠していない)」など妄想のように語り、理解がしがたいです。
ただ時代の変化によって、うつ病それ自体が軽症化しているのも事実です。昔の人よりも現代人の方が、心理学的な知識(うつ病という病気のことを知っている、お化けなどの存在を信じない、など)があるためだ、と言われることもありますが、その理由は分かっていません。
また、何もストレスのない人生はありえないので、うつ病を発症した時期にも、何かストレスやトラブルが起きていることが多く、「そのストレスで落ち込んでいるのでは?」と考えれば、診断は適応障害になってしまいます。
しかし、診察や治療を続けていくと、うつ病の人は再発することが多く、元気な時期と落ち込んでいる時期がはっきりとわかるので「この人はうつ病だったんだな」とわかることが多くあります。
あとは臨床医の勘です。医師のセンスにもよりますが、全体から見れば、結構当っているようにも思います。しかし、外すことも多いので、やはり薬物療法の必要の有無は診察のたびに考えなくてはいけないと思います。
これらの薬は抗うつ薬ほど重要度は高くないですが、あるととても楽に過ごせます。睡眠薬はよく眠れるようになりますし、抗不安薬は日中の不快感を軽減してくれます。
「抑うつ状態」の期間はとても苦しいので、薬の助けがあってもいいのではないかと思います。うつ病の人に抗うつ薬が効くまで、適応障害の人の職場環境調整が済むまで、時間はとてもかかります。その間、これらの薬があったほうが、楽に過ごせます。
依存になりませんか、と聞かれることが多いですが、適量を飲めば、依存にはなりません。
どちらの病気の方が苦しい、というのはとても不毛な議論のように思います。どちらも「抑うつ状態」の中にあり、とても苦しいです。寝込んで動けないから苦しいのか、ギリギリ会社に行けるから苦しくないのか。どちらも苦しいはずです。
どちらもとても苦しく、死んでしまいたいと頭によぎることがあります。決して無理をせず、気軽に診察に来ていただければと思いま